かかりつけ保育園になります
私たちは「かかりつけ保育園」になります。かかりつけのお医者さんがいるように、子育てについての「かかりつけ」があれば、社会がもっと豊かになると考えるからです。
子どもが園に在籍しているかどうかは、関係ありません。園に来るのが初めての方でも、子どもを育てていて『これでいいのかな?』『よく分からない』『迷ってしまう』と感じたときに、相談する先として、気軽にお立ち寄りください。
敷居が高いとお感じになる方は、ご近所様からのご紹介で来園するという方法でも構いません。あるいは下記のお問い合わせフォームからメールをお送り頂いても結構です。
子どもの育ちを見守り、時には相談していただける存在になることが、私たちの望みであり、喜びです。子育てが順調であることは社会への大きな貢献です。子どもが未来を創っていくからです。
保育園はみんなの充電スタンド
「平日はエネルギーを使い果たし、休日に充電」という生活スタイルは、もう多くの人の現実に合っていない気がします。自動車だってガソリンスタンドという「給油専用場所」で燃料を入れる方法から、出先で用件のついでに駐車場で済ます「ついでに充電」へ移行しつつあります。
一昔前までは、連休はリゾート地へ出かけて休息というイメージがあったかもしれません。しかしそういう専用場所への移動が大変だと感じることも多くないでしょうか。もっと普段から、こまめにリフレッシュできる場所や時間があった方が、仕事も休日も充実するのではないかと思うのです。
保育園は子どもだけでなく、大人にとっての「充電場所」になっています。子どもの育ちも自分のエネルギーになるだろうし、少し話すことができれば、張り詰めた気持ちがほぐれる時間にもなるはずです。保護者同士の他愛のない会話も、心の支えになることもあります。
保育園に気軽に立ち寄って、その度に心が充電されるような生活スタイルって、素敵じゃないでしょうか。保育園はみんなの充電スタンドです。
好循環の始まりに
子どもがご飯を食べるようになる。そうすればお腹がふくれて、眠くなって、よく眠る。よく眠ると気持ちがいいし、生活リズムが整うから、情緒は安定する。情緒が安定すると、遊びにも積極的になる。よく遊ぶと満足感があるし、お腹もよく減る。お腹が減ると食事が美味しく感じるので、よく食べる。
子どもの育ちが順調だと、保護者の情緒も安定する。情緒が安定すれば、子育てが楽しくなる。楽しいと、柔軟になる。そうなれば、子どもへの理解が深まる。そして自信が出てくる。かかわる人が自信を持つと、子どもは安心し、育ちがさらに順調になる。
子どもと大人の関係が良くなると、心に余裕が出てくる。そうなれば、かかわりが自然になり、育ちあうようになる。かかわり育ちあう関係になれば、お互いの良さが引き出される。一人ひとりが備えもつ良さが引き出されれば、尊敬しあうようになる。敬意は相手を育て、自分を育てる。
子どもが育ち、大人が育つと、社会が豊かになる。関係が豊かな社会になる。それは育ちの好循環を生む。この好循環の始まりは、どこにあるのか?それは、どこにもない。かかわりによって生まれる、生み出される。
Nice and Warmな社会づくり
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(監督ケン・ローチ:2016年)は、現代の貧困問題の深刻さを示すとともに、その厳しい状況にありながら市民同士が心を通わせ、それぞれの場面で、理解し合い、助け合う姿を描いています。
シングルマザーのケイティは子どもを2人連れ、引っ越して来たばかりで、当てがわれたアパートは壊れたところだらけ。大工であるダニエルは失業中であるにもかかわらず、自分にできる修理を率先して行ない、その家族の助けに少しでもなろうとします。
寒さの厳しい季節、暖房が整わないそのアパートで、冷たい外気が侵入するのを防ぐために、ダニエルは梱包材のプチプチを窓に貼るという工夫をします。窓の大きさに合わせてそれを切り、その部屋を使う少女と一緒に窓に貼り付けながら、その効果の仕組みを説明します。
『太陽がプチプチの中の空気を暖めて、部屋をほどよい暖かさに保ってくれるんだ』“The sun heats up all the air, and these bubbles will keep your room nice and warm.”。
この言葉は、市民社会づくりのイメージを隠喩として語っていると考えられます。
市民一人ひとりはプチプチのように空気で膨らんだ小さな袋でしかなく、大したものではないけれども、その一つひとつが内側に暖かさをたたえ、そして集まれば、社会(部屋)がほどよい暖かさ“nice and warm” に保たれるとの提唱がここに読み取れます。
ダニエルが手順を伝える中で何気なく言う、それを貼り付けるためには『ノリも接着剤もいらない』“We don’t need any glue, nothing like that.”という言葉にも、同様の社会づくりの構想が重ねられていると言えるでしょう。そこには、経済指標とは別の、持ちつ持たれつの関係を豊かさの要と考える市民社会が想い描かれています。
私たちは、豊かな市民社会を望んでいます。市民同士が心を通わせ、助け合う関係にあることを基盤とする社会です。生活に必要な安全性が備えられ、それを求めることが当然であると考える社会です。
「かかりつけ保育園」は、より良い市民社会づくりへの小さなアプローチ、小さな工夫としての取り組みです。その活動は実践的でありたいと思っていますが、その本質は市民との協働的な関係性にあります。
Nice and Warmな社会づくりの根幹である人と人との関係に豊かさを見出し、そのかかわりの中で生まれるのが「かかりつけ保育園」だと考えています。
ケン・ローチ監督(2017)『わたしは、ダニエル・ブレイク』株式会社バップ(DVD) 是枝裕和 ケン・ローチ(2020)『家族と社会が壊れるとき』NHK出版新書