かかわり育ちあう社会とは
人間のかかわりには、その関係を通してお互いが成長しあうという側面が含まれています。人と向き合うことはしんどいこともあるし、どのように自分が影響を受けているのかが分からないこともあるのですが、どこかで自分の成長につながっているということも事実ではないでしょうか。それは社会関係においても同じで、利用者と対応者という関係性だけでなく、そのかかわりの中で両者が共に育つことが促されます。このような相互成長関係を重視した社会が「かかわり育ちあう社会」です。
かかわりは非常に深刻な場面で問われることもあります。是枝裕和監督の映画『誰も知らない』(2004年公開)では、12歳の男の子を年長とした子ども4人を置き去りにしてしまう母親のネグレクト(育児放棄)と、次第に追い詰められていくその家族の状況に気づかない近隣とのかかわりの希薄さの問題性が示されています。しかしこの映画の特徴は、そのような人間関係の希薄さの中にあっても、母親と子どもたちとの関係、残された子ども同士の関係のすべてが殺伐としたものであったのではなく、そこにもこころの通った温かいかかわりがあったということを描いているところです。『彼らの暮らしには物質的な豊かさとは異質の、ある「豊かさ」が存在しただろうし、兄妹たちの間での感情の共有が、喜びと哀しみが、そして彼らなりの成長と希望があったのではないか』(是枝,2016)。そして苦境の中にあって、必死に子どもたちだけの生活を支えようとした主人公の男の子が身体的にも精神的にも「成長」していく姿が映し出されています。これは社会的には「かかわれなかった」事件であるかもしれないが、その中にさえも「かかわり育ちあう姿」があることを捉えていると言えるでしょう。
私たちは保育に携わるものとして、かかわりの中にこそ「育ち・育てる」という人間の最も豊かな関係が生まれるという事実を、日々の保育の中で目撃し、経験しています。子どもだけでなく、保育を通して保育者自身が育てられるのです。子どもを育てることで保育者が育ち、保育者が育つことで子どもが育つのです。この「育ち・育てる」という営みは、子育てという枠組みを超えて、様々な人間関係、社会関係においても成立するものでしょう。そのような「共に育つ」関係をネットワークとして結んでいくことで、地域社会を豊かにしようとする取り組みがあちこちで行なわれています。そして保育園はその社会へ向けて「かかわり育ちあう姿」を広げていくための拠点となる役割を担っていると考えています。それを実現するためには、多様な人材が必要なのです。
是枝裕和 監督(2005)『誰も知らない』バンダイビジュアル(DVD) 是枝裕和(2016)『映画を撮りながら考えたこと』ミシマ社
子ども同士のかかわり
分かち合い
子どもの同士のかかわりの中心は遊びです。そして遊びの発達の重要なポイントは「独り占め」から「分かち合い」への移行です。もちろんその過程には様々な紆余曲折があってやっとたどり着くのですが、その長い道のりには人類が他の霊長類から分かれて人間になっていった種としての進化と重なるところがあります。
食物を手に入れたときに、それを他者と「分かち合う」ことが前提となっていることが人間とその他の霊長類を分かつ大きな特徴であるとの指摘は、子どもの遊びが「一人遊び」から「協同遊び」へ発達していくことが、単なる遊びの領域に限られたものなのではなく、人間が人間であるために重要な特徴である「分かち合い」の精神を備えていく過程であることを示しているとも言えるでしょう。それはおもちゃなどの「物」の分かち合いにとどまらず、創造的な遊びの共有(=分かち合い)にまで広がります。
ケンカと和解
問題解決は最も高度なかかわりのひとつです。トラブルの解決は、その結果以上に解決に至る過程が重要な「学び」と「育ち」の機会になります。子どもたちに提示する問題解決方法として私たちの園では、ケンカや言い争いになったときに座って話し合うための場所を設けています。それは「ピース・テーブル(和解のテーブル)」と呼ばれています。トラブルになると園児たちはこのテーブルの前で椅子に座って向き合います。ここに座ったら相手の話に耳を傾けなければならないというルールです。もちろん自分の思いや意見も伝えます。「話し合い」こそが問題解決の道だと気づき、その方法を身につけるための取り組みです。ケンカも和解もそのプロセスにおいて「育ちあい」です。
山極寿一(2012)『家族進化論』東京大学出版会
子どもと地域社会の育ちあい
地域社会における子どもの役割
子どもと地域社会のかかわりは、単に活動者と受け皿という関係にとどまるのではなく、お互いが育ちあうという視点で考えることができます。『子どもは地域社会によって育てられるが、同時に、実は地域そのものが子どもたちによって創られていくのである。子どもたちが、元気に遊び生活する姿こそ、地域コミュニティ活性化のポイントであり、未来への希望である』(増山,2015)。このように子どもは地域社会で育ちながら、地域社会を育てているのです。
子育てネットワークの拠点
主に高齢者福祉が中心となっていますが、多職種が協力し合うことによって地域の福祉全体を支え合う仕組みを構築する「地域包括ケアシステム」という考え方があります。地域社会がネットワークでつながることで高齢者の暮らしを支えていこうとするこの考えの枠組みは、子育て支援の領域にも当てはまります。社会全体で子育てを支えるためには、多様な業種・職種とのネットワーク構築が必要であり、その子育てネットワークの拠点として保育園が担う社会的役割は大きいと考えています。それは私たちが保育理念として掲げる「共生と創造」ともつながります。
保育理念:共生と創造
- <共生>
多様性を尊重し、協力し合うことによって他者や自然と共に生きる平和で持続可能な社会をつくる根となる
- <創造>
困難に勇気をもって向き合い、深く考えることによって新たな工夫や解決の道を生み出す創造の源となる
これは「共生」というかかわりの中で、育ち・育てるという「創造」を目指すと言い換えることができるでしょう。「子育ての社会化」ということが言われていますが、子どもが集団の中で育つこと、かかわりの中で育つことの意義を強調するものでもあります。特に対人関係能力は、様々な人たちとの関係の中で身につけていくものです。
ここで示されたような集団の中で子どもが育つ場として保育園は重要な社会的役割を担っています。そして実は保育園で働く職員も、社会人として成長していくためには、多様なかかわり集団の中で活動することが大切であり、それが可能になる職場環境を整えることが保育園にとって大きな課題です。そのためには保育園が多様な人材が出入りする場になることが必要であると考えています。
柏木惠子(2008)『子どもが育つ条件 ―家族心理学から考える―』岩波書店 竹端寛・伊藤健次・望月宗一郎・上田美穂 編著(2015)『自分たちで創る現場を変える地域包括
ケアシステム―わがまちでも実現可能なレシピ―』ミネルヴァ書房 増山均(2015)『学童保育と子どもの放課後』新日本出版社
多様な人材が学びあう保育園へ
社会に開かれた学び場
保育園は職業体験やボランティアを通して、「ケア(care)」という視点から社会体験ができる学び場です。例えば高校生ボランティア。自分の将来を考える時期でもある高校生にとって、保育士を目指すかどうかにかかわらず、子どもたちとかかわる経験は自分を見つめ直すきっかけになる可能性があります。夏休み、冬休み、春休みなどの長期休暇を利用して来園される学生が数名います。また、高校の授業の一環としてのインターン実習生も受け入れています。加えて、異なる業種の社会人の方が、例えば新入社員研修の一環として、保育現場体験をしてくださる場合もあります。このように対人援助職としての保育の経験は、様々な「学び」とつながる可能性を持っています。
保育園には多様な人材が必要
保育園には多様な人材が必要です。保育士以外にも、食事を提供するために「調理師」、「栄養士」などの調理にかかわる専門職が不可欠です。組織運営に携わる「管理職」や「事務職」なども、保育園の社会的役割が広がるに伴って増員する必要があります。また、地域の社会資源や様々な関連職種とのネットワーク構築には老若男女を問わず多様な人材が求められます。特に新規事業の立ち上げを経験された方や、あるいは「研究職」などのじっくりと腰を据えて仕事に打ち込むことができる方は貴重な存在になるでしょう。まだ若く社会経験が少ない方であっても、例えば将来、保育園運営に従事したいと考えているのであれば「副園長補佐」などの多方面から社会福祉事業を経験する立場でキャリアをはじめることも可能です。
子どもの育ちには、その背景にある家庭や地域社会が大きな影響を与えています。園と家庭と地域を行き来する「ソーシャルワーカー」はこれからの保育園に必要な職種です。また、対人関係が仕事の主な領域になりますので、カウンセラーなどの「心理職」も幅広く活躍できるでしょう。その他、「看護師」、「保健師」、「療育関係職」、「子どもの遊び場活動関係職」、「児童福祉施設関係職」などの隣接領域の経験者、活動内容を伝えるための「広報担当スタッフ」なども力を発揮していただけるでしょう。
保育園での仕事を、自分の目標へジャンプする前の助走路として考えることもできます。例えば小学校教諭を目指す学生が、小学生になるまでの子どもたちと生活を共にする経験は、将来のキャリアにとって貴重な経験になるはずです。そのような自分の将来へ向かうための基礎造りの場として保育園を活用していただいても構いません。数週間のインターンシップとして、あるいは年単位の実りある遠回りとして保育園で仕事をしてみることも可能です。チャレンジする方が現われることを期待しています。
理解を深めあう機会として
就活インターン
その人の長所や能力は、時間をかけなければ見えてきません。それは就職を考えるときも同じで、その職場について本当に知りたいことは「実際に働いてみないと分からない」のではないでしょうか。私たちは、保育という仕事をより深く理解していただくために、そして求職者と園がお互いに理解を深めあうために「就活インターン」という機会を設けています。現役の職員と一緒になって仕事に取り組むことで、話を聞いたり説明を受けたりするだけでは伝わらない保育の楽しさや苦労、そして大久保保育園の保育への姿勢を実感していただくことができると考えています。時間をかけなければ見極めることが難しいお互いの長所や魅力を確かめ合いましょう。
意欲ある皆さんからのご応募をお待ちしております。
対象 | ・高等専門学校、短大、大学、大学院等に在学中の方 ・高等専門学校、短大、大学、大学院等を既に卒業されていて、保育園で働くことを目指している方 |
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実施期間 | 8月~9月にかけての期間内で5日間、もしくはそれ以上(ご相談の上、個別に決定) |
見学・保育体験・ボランティア
随時受け付けています。
対象 | ・高校、高等専門学校、短大、大学、大学院等に在学中の方 ・高校、高等専門学校、短大、大学、大学院等を既に卒業されていて、保育園で働くことを目指している方 |
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申込み方法 | 電話もしくはEメール(momomoon@okubo-hoikuen.or.jp)でご連絡ください。日時などをご相談いたします。 |
育ちあうために
保育とは「育ちあい」だと考えています。例えば、オムツを替えるときも、汚れたオムツを新しいものに取り換えるだけではありません。子どものその日の体調、情緒の安定度、意欲、発達の様子などを受け取りながら、心の通わせるためにどのタイミングでどのような言葉を掛けながら身体と心を整えるかを判断し、オムツを替えます。それは赤ちゃんの「育ち」へのかかわりであると同時に、保育者が赤ちゃんの育ちを考えることによって自分自身が保育者として「育てられている」かかわりでもあります。これが「育ちあい」です。保護者との関係、そして職員同士の関係においても同様のことが言えます。
遠藤利彦(2017)『赤ちゃんの発達とアタッチメント ―乳児保育で大切にしたいこと―』ひとなる書房遠藤利彦・佐久間路子・徳田治子・野田淳子(2011)『乳幼児のこころ ―子育ち・子育ての発達心理学―』有斐閣
研修・育成
毎日の保育が研修です
保育は「対人援助」の仕事であるがゆえに、毎日の業務が自分を高める「研修」の意味合いを持ちます。仕事終わりにその日の自分を「ふり返る」こと、その営みこそが最も大切な研修です。子どもとのやり取り、仕事の段取り、職員同士の連携、保護者対応の場面などでの自分の気づきを明確にし、明日の保育につなげていくという各個人の営みが「学び」の基礎であるとともに、自発的な仕事への姿勢を育むと考えています。
研修
- 新人研修(園内、保育関連団体主催)
- 各種研修(キャリアアップ研修、他園見学研修、保育・教育関連団体主催の研修など)
エルダー制度
新人職員に対し相談役として先輩(エルダー)を指定し、仕事上で分からないことや困っていることなどがあれば、そのエルダーがいつでも相談にのってくれるという制度です。新人職員が職場になじみ、早い時期から自発的に仕事が進められるようにサポートすることが目的です。
自己啓発支援
- 保育関連図書の貸出し
- 書類(計画案、保育記録等)の添削指導
- キャリアアップ研修の費用支給
ワーク・ライフ・バランス(work-life balance)
仕事と家庭/生活の調和をはかることは、その個人の人生を豊かにするだけでなく、未来の社会を豊かにすることでもあります。子どもは未来です。子どもと共に生活し、かかわり育ちあうことを仕事としている私たちにとって、働き方においても未来を豊かにする取り組みの一歩を進めていきたいと考えています。ワーク・ライフ・バランスを協働者と共に実現していきます。